バタン!


「匠!」

「蓮、きた…っ」

匠の胸ぐらを掴んでいた。

「お前、いつもあんな事を高瀬にしてたのか!」

「っ…、彼女に聞いた…のか」

匠は、掴んだ手を力づくで振りほどいた。

「蓮、昨日言ったよな?本気になるな、高瀬にはって。それだけ怒るってのは、気があるんだろ?違うか?」

「匠…俺には、そう言われてもまだはっきりしてる訳じゃないんだ。気になってるのは確かだ、けどそれがなんなのかはっきりしてないんだ」

匠は、首を横に振った。

「それが、好きになってるって事じゃないのか?いいか、蓮。ちょっとしたことがきっかけで好きになるって事もあるんだぞ?高瀬に玉の輿に乗りたいって下心はないと、思うよ。だけど、男慣れしてないんだ、高瀬は。俺の行動一つ一つに動揺してるのが手に取れるから。だけどな、それが一番危険なんだ。高瀬が本気になったらどうする?別れてくれ、はいそうですか、じゃすまないんだよ!高瀬も傷つける事になるんだよ、そうはなってほしくないんだよ」

匠が言ってる事も分かる。
本気になってからじゃ、遅いか…
だが…


「匠、お前やっぱり、また親父に何か言われてるのか…」

「え?」

図星か…
見合い話でも本格化したのか…

「え、じゃないんだよ。なんか言われたんだろ?周りを見とけって、言われてるのは知ってたけど、最近ひどいもんな。見合いでも話に出てるのか?」

「今に始まった事じゃないだろ。ま、確かに見合いの話が本格化してるのは事実だよ。もう日取りまで決まりかけてる。社長からは、女関係は清算させろと毎日言われてるよ」

「俺に好きに恋愛させる気はないってことか…」

「ふっ、違うだろ。恋愛するのは好きにしたらいい。結婚が好きに出来ないだけだ」

「一緒の事だろ!」

そんなに俺には自由がないのか、結婚相手ぐらい俺に選ぶ事が出来ないのか…

今日ほど、自分の立場を恨めしいと思った事はなかった。