「陽ちゃんはさ、あの子のこと好きだよね」




エレベーターに乗り込んで、二人きりになったその瞬間。

陽太から、俺の方に視線を移した彼女の唯香がそう言った。

あの様子は絶対にそうだと。

やっぱり陽ちゃんはわかりやすい、と。そう言った。

だけど俺は、あえて気づいていないふりをして唯香に言う。



「…そう?いや違うだろ。相手生徒じゃん」

「えー、恋をするのに教師とか生徒とか、立場なんか関係ないでしょー。大事なのは気持ちなんだから」

「!」

「あたしは好きなんだと思うなぁ、陽ちゃん。やっと春がきたんだね」



そう言うと、「あたしは嬉しいよ」と笑顔を浮かべるから。

唯香も陽太のことが特別なんだということを改めて知る。

っていうかね、



「え、何それ。なんかまるで母親みたいな目線だね」

「え、そう聞こえた?やだな」

「まぁ…元カレだからな、陽太は。仕方ないけど」



俺は唯香のそんな言い方がなんかおかしくてそう言うと、でもふいに元恋人同士だったことを思い出す。

元々は、俺は陽太と唯香の恋を応援していた立場。

なんならこの二人をくっつけたのは俺だった。

……けど。



「…でもね、篠樹くん」

「?」



ふいに昔のことを考えていたら、その時また唯香に名前を呼ばれて俺は顔を上げた。

そして、エレベーター内で交わる視線。

すると唯香が言葉を続けて言った。



「…あたしは、篠樹くんと付き合って幸せよ」

「!」

「だって…」

「?」

「だって陽ちゃんは…陽ちゃんと恋をするのは、辛いだけだからね」



唯香は、そう言うと。



「あ、やっと着いたー」

「…、」




ようやくエレベーターが一階に到着して、先にそこを降りた。

俺が思うに、唯香はたぶん。

陽太のことが、まだ好きなんだと思う……。