「あ! わたし傘電車に忘れた!」


「まじ? 取りに行く?」


「んービニールのやつだしいいや」



どんよりした天気だけど、まだ雨は降っていない。


優にぃも近所だからってことで手ぶら。


早足で県道沿いの歩道を進みながら、まわりの景色を眺める。



不思議な気持ちだった。


コンビニ、住宅、スーパー、マンション、ファミレス。


わたしの住んでいるところと似ているようで、少しずつ違う。


そっか。優にぃはこの街で生活しているのか。



「あ、雨……」



ぽつり、頬に水滴が当たった。


と思えば、すぐに粒が大きくなる。



「うーわ、俺傘持ってくればよかったわ」


「昼まで降らないって予報でやってたのにー!」



点状にアスファルトの色が変わり、全体を埋めていく。


景色がツヤを帯びていく。


前髪と顔が濡れないよう両手を額に当て、ダッシュする優にぃの後ろを追った。