「だ、誰ですか!?」

 拳銃をしっかり前に突き出して、しっかり的を定める。

「へ、返事を……」

 バン!!!

 再び銃声が、今度はかなり近くで聞こえた。

 次に一気に明るくなり、目を瞑る。

「………………」

 次に目を開いた時には。

 目の前には足から血を吹き出しながらうごめき倒れている男。その下には、到底生きているとは思えない、血まみれの下着姿の女性の姿があった。

 撃ってしまった……。

 始末書ものだ。いや、それではすまないかもしれない。

 手が震えて銃が床に激しい音を立てて落ちた。

 膝も震え、その場に尻もちをついてしまう。

「あん?」

 どこからともなく現れた山本が、こちらに寄り、

「どした? ほれ」

と、落ちた銃を拾い手渡してくれる。

「あ……あたしが撃った……」

「……ぷはーっはっはっはっは!!!!」

 場違いな笑い声に、死体の周りに集まっていた数人が振り返った。

「えー? あんたの銃、安全装置も外れてねえじゃねえか!」

 山本はまだ笑っている。腹を抱えて笑いながらも「すまん」と謝ってくれたが、どうも笑いがおさまらないらしい。


 本当だ、安全装置も外してない。そうだ。そもそも撃つ気はなかったから、間違えて撃たないように外してなかったんだった。

「安心しろぉ。あんだけの中命中させられるのは嵯峨くらいだよ」

 後ろを振り返れば、皆から少し離れたところで、辺りを入念に調べている男がいる。

 あの人が嵯峨か……。

「まあ、昨日学校出たんじゃ仕方ない。んでいきなりこの事件だ。だが、恥かしくもなんともない。こういうのはよくある失敗だ」

 めちゃくちゃ笑っといて、それはない気がしたが、救われたのは間違いない。

「はい……ありがとうございます」

「立てるか?」

 山本が腕を引っ張ってくれて、どうにか立てた。

 辺りは埃だらけで、スーツもグレーにしておけば良かった。黒だと汚れがめちゃくちゃ目立つ。

「アオイちゃん。真正面から突っ込んじゃダメでしょ。俺らせっかく隠れてたんだから」

「すみません」

 桐谷に言われ、頭を下げた。

「ま、それが丁度陽動になって良かったじゃねえか」

 山本はまたも救ってくれる。

「ですけど。逆に相手が撃って、辺りどころが悪かったら…ね」

「はい……」

 嵯峨が目に入った。何か、言っておかなければならない。

「あ、あの……あの、勝手に出て行ってすみませんでした」

 自分が上司といえど、多分部下の人がせっかく計画していて、それを自分がミスしたんだから謝るのは当然だ。

 だが嵯峨は一瞥しただけで、そのまま通りすぎてしまう。

 聞えなかったはずはない。

「あ、あのー。…あ、今日付けで配属された、三咲 愛生ですー!!」

 それでも嵯峨は無視してくれる。

 組織とか、仲間とかそういうのはどうでもいいのかもしれない。実際銃の腕は確かなようだし1人でも充分、という性格なのかもしれない。

 ……というか、どこから狙ってたんだろう。

「………あ、あのー」

 辺りを見渡す嵯峨にもう一度声をかける。彼はようやく目を合せた。

「あの、どこから撃ったんですか? すみません、全然見えませんでした」

「見えないことはない。俺はあんたが注意できるように、見える所から撃った」

「………」

 周りに全く気を配れていなかった自分に深く反省しながら、

「すみません……。その……最初に銃声が聞こえたので、誰かが撃ったんだとは思ったんで…慌てて来たんですけど……」

「誰かって誰が撃ったと思った」

 なんだか、詰問みたいだ。

「……桐谷さんか、山本さんか」

「考えが想定内過ぎる。もちろん撃ったのは、犯人本人だ。女が随分抵抗していたんだろうな。俺が着く一歩前だった。銃を持って1人殺した以上、無傷で確保という選択肢は外した」

「…………」

「……それでどのタイミングで出るのかあんたの指示を待つのも良かったが、当のあんたはそれどころじゃなさそうだった」

「すみません」

 再び深く頭を下げた。

 それ以外に方法がない。

「三咲」

 背後から声がして、ようやく頭を上げた。

 鏡だ。

「あ、すみませんあの、私が……」

「こんな所で何をやっている」

 だって、確かに変だとは思うけど、私の方が後輩だし…。

「あの、その……」

「お前が何もできないことは分かってる。頭を下げるのは悪くはないが、次に繋げろ。前を向け」

「あ……はい!」

 分かってくれてる……。

「現場検証に戻れ」

「はい!!」

 失敗から逃れたくて、走って前だけ見た。

「きゃ!!!」

 だが、空き缶につまづいて転び、再び山本に起こしてもらうはめになる。