なんでこんなところに来ているのかと言えば。
今から数時間前。
『ただいま』
諍いを経て。
小さなアパートに戻ると。
今朝いた人影は見えず、代わりに置き手紙が1枚。
[Dogsで遊んでるから、和佳菜も来て]
これは、誰の字だろうか。
汚すぎて書いた人間が判別不可能なその字を見ながら、そう思ったが、当然行くつもりは無かった。
だって、あそこ、Dogsはホストやキャバ嬢が歩いてるようなところだし。
危ない目に進んで逢いにいくほどあたしもバカじゃない。
彼らには昨日も会ったし。
この惨状を片付けなければならないのだから、こちらが先だ。
その時携帯が鳴る。
『はい』
『あ、和佳菜ー?今家?』
電話をかけたのは、この家を荒らした張本人。
『そうだけど、なに。琢磨(たくま)』
あたしが向こうでつるんでいた時仲良くなった人たち、彼らの一人だ。
まあ、彼のせいで仲良くなったと言った方が正しいか。
まあ、その話は、店に着いた時にまたするとして。
『こっち来てよ。みんな和佳菜待ちなんだけど』
あたしをどうしても呼びたいらしい。
『待たれても困る。あたしは行かないわよ。部屋を片付けるのが先』
『別にいいじゃん?そんな汚くしてないんだし』
『どこがよ!酒臭いわ、ゴミ散らばってるわ。とてもあたしの家だと思えないんだけど』
『じゃー俺らも一緒に片付けるから。これでいいだろ?迎え寄越すから来いよ』
ヘラヘラと笑った声に若干イラつくが、ずっと断り続けるとキレるからなあ。
もう手がつけられないくらいに。
スイッチが入ってしまった琢磨は恐ろしい。
『もう、じゃあそれでいい。絶対だからね!』
その絶対はあまり信用出来ないんだけど。
1人が寂しいのもあるし、行ってやろう。