「お疲れ様です」

何か、氷室室長の顔が企んでいるようで、後ずさりした。

「そんな、あからさまに逃げなくても?何もしませんよ」

やっぱり…
氷室室長には隠せない。
笑って誤魔化しておかないと…

「そ、そんな。氷室室長は細かい所まで気付かれるんで、失敗出来ないなぁ、って思ってたんですよ」

疑いの目が突き刺さる。

「ほぅ、そうですか。じゃ、これはどうかな」

バンッ!

私は、壁と氷室室長に挟まれてしまっていた。

これって、世間で言う壁ドン?

氷室室長の顔が近い!

切れ長な目が、私を射抜いた。

「高瀬さん、私の目は誤魔化せませんよ?」

「え?」

胸のドキドキが止まらない…

氷室室長は、右手で壁にもたれかかり、左手で私の頬を撫でた。

「とぼけないで。ここで暴いてもいいけど?」

氷室室長の手が、顎を持ち上げた。

逃げたいのに、逃げられない…


私どうなるの!!!

どうしていいか分からず、ぎゅっと目を瞑った。



でも、何も起こる事もなく、すっと私の前から氷室室長が離れていくのが分かった。

「やっぱり、あなたは愉しいね…。しかし、そのスキルはここでの仕事だけで掴んだとは思えないんだが?」

何かを感じ取ったのか、氷室室長の表情が変わった。