「おはようございます、乾さん」

来たよ、秘書課の女ボス、乾志保31歳。今まで、前専務の専属秘書をしていたのに、今回の異動で見事に降格。社長秘書の氷室室長の補佐に回された、らしい。美玲が人事部の特権で仕入れしてくれた話。自分が、如月専務の専属秘書をするもんだ、って思ってたに違いないな。

何を話しても、きっと突っ込まれるんだろうな、と思ったらおはよう以上言えない。

「気遣ってあげてるのに、無視なの?あらやだ、いい気にならないでね!」

はー。
面倒くさい。
仕事しようよ、仕事。
総務部の社員の方が、よっぽど無駄口たたかずにやってるよ。
私のココロの声も腹黒さを増していく。

「高瀬さん?志保さんが声かけてくれてるのよ?何かあってもいいでしょう?」

乾志保の腰巾着、新家亜都子が応戦してきた。
秘書課でやっていくからには、この中で埋もれなきゃいけないのか、と思うとここでの仕事は私には無理だなと思った。専属でよかった。私のデスクはそこにあるから…

「大変も何も、昨日からで何が大変なのかも、今の私には分からないから、答えようがないじゃないですか」

乾志保がキレた。

「な、あなたねっ!いい気にな…」

「おはようございます。高瀬さん、大丈夫ですか?」

音も立てずにいつの間にか、私達の後ろにいた氷室室長が割って入ってきた。
乾志保や新家亜都子の顔色が、一瞬にして変わった。

「大変よね、って声をかけてたんです!」
「そうそう、そうです!」

………

「氷室室長、昨日はありがとうございました。では失礼します」

余計な事は言わず。
関わるのも疲れる。
そんなに、イケメンがいいのかな…
見た目って、大事?

氷室室長に一礼をして、役員専用エレベーターの方に向かった。