最後にお礼くらい言いたかったな。欲を言えば、もっと一緒にいたかった。水野君の話を聞きたかった。水野君と一緒に帰りたかった。
そしたら、もっともっと距離が近くなったかもしれないのに。
なんて、そんな欲張りなことを思ってしまうのは、恋をしているせいなのかな。
私の中が水野君一色で満たされていくみたい。
「なんだって?」
「あ、先に帰るって」
「で、なんで桃はにやけてるんだよ?」
「え? に、にやけてないよ」
「そんなに好きなんだ?」
「……っ」
やっぱり、今日の蓮は意地悪だと思う。そんなこと聞かないでよ。蓮に言うのは照れくさいんだって。
蓮はなぜか真剣な瞳で私を見下ろしている。
「好きなんだ?」
「う、ん」
言わざるを得ない雰囲気になり、気まずいながらも返事をする。恥ずかしすぎて、妙にドキドキしてしまい、顔も真っ赤だ。
どうして蓮にここまでバカ正直に言っちゃってるんだろ。からかわれるのは目に見えてるのに。それにさっきみたいに水野君にバラされそうになったら嫌だな。
他の人にしゃべったりしないよね?
「だ、誰にも言わないでね。もちろん、水野君にもだよ」
「言うわけないだろ。俺、あいつ嫌いだし。なんでわざわざそんなこと言わなきゃいけねーんだよ」
出た、出ました。ブラック蓮。
「いやいや……さっき言おうとしてましたよね?」
しかも、なんでそこで不機嫌になるの?
嫌いだしって、きっぱり言い切るのは蓮らしいけど。
「うだうだ言ってねーで、ほら、俺らも帰るぞ」
蓮は私の手を取ってグイグイ引っ張る。
「ちょ、子どもじゃないんだから」
蓮の手を振り払おうとしたけど、さらに力強く握り返された。
「桃はすぐ迷子になるから、心配なんだよ」
「大丈夫だってば」
いくら言っても離してくれなくて、とうとう最後には私が折れた。
お祭り会場にはまだたくさんの人がいて、駅へ向かう人の流れの中を静かに歩いた。