更衣室で制服に着替え、総務部へ行こうと歩いていると、人事部の前で人だかりが出来ていた。ボードに何か貼ってある用紙を見ながら、みんな話をしている。見に行きたいけど、なかなか前まで行けない。

ちょうど、同期で人事部の美玲がいたから、声をかけた。

「ちょっと、美玲。これなに?」

「あ、涼香。おはよっ。今日辞令が出たのよ。今さっき」

こんな時期に?

「辞令?誰か飛ばされたとか?」

「違う、違う。社長の息子が帰ってくるんだって!」

「へ?息子?あの海外赴任してる?」

「そう。専務って事で。まぁ、次期社長でしょ?私らはさ、知らないじゃない?どんな人か。さっき先輩に聞いたんだけど、超イケメンなんだって!それでみんな色めき立ってるの」

「は、はい?それだけ?」

「あんたね、それだけって…」

「面白くないなぁ。誰か飛ばされたんだと思ってたのに」

「ハイスペックのイケメンより、人の不幸の方がいいって?」

「いや、人の不幸って…。人事異動とか楽しいじゃない?」

「いやいや、楽しくないし。私ら、朝から大変よ」

「人事部なんだから仕方ないでしょ」

「はいはい。ね、それより今夜空いてる?」

「行く?」

私が、行く?と飲む仕草をしながら言うと、

「あったりまえじゃない。だから空いてる?って聞いたの!」

「じゃ、また後でね」

私達は、夜の約束をして仕事に戻った。