「で、社長はいつここに?」
「40分くらい前です。本木さんも今日社長がお見えになることご存じなかったんですか?」
「うん、知らなかった。連絡なかったもの」

何かしらのトラブルがなければ急にここへは来ないはず。
支社の事務的なトラブルなら下北さんはまず私に話すはずだし。そうではないのだから現場の方なんだろうけど・・・。

「私の留守中に何かありました?」

「私も直接は聞いてませんけど、どうやら大手から新規事業のお声かけがあったんじゃないかと」

「大手の新規?」

聞けば、朝一番で私が外回りに出た後、バイク便が来て、そこからは下北さんがあちこちに電話をしたりかかってきたりと対応に追われてバタバタしていたらしい。

「下北さんはすぐに社長に連絡してました。その時に”新規の”って単語が耳に入って」

ふうん。
ご新規さんならありがたいことだけど、わざわざ社長が長野からとんできてむっつりしてるってことはめんどくさい何かがあるんだろう。

「あの、私、社長とお会いするのが初めてで。挨拶とかもまだしてないんですけど」
「あっ、そうでした!
社長のお母さんからの紹介で入ってもらったからついうっかりしてたけど、社長とは面識ないんですもんね」