「……やっぱり、本当なんですか?本当に課長は、私のことを……?」


「……ああ。佐藤とよくいる藤本さんにお前のことを聞いていたのは、本当だ」


「どうして、ですか?」


何故か、早くなって不規則に高鳴っていく心臓に息が苦しくなりながら、私は蚊の鳴くような声で訊いた。

本当は課長に、『違う』って言って欲しかった。


だって、どう反応していいか、分からないから……。


「……どうしてなのか、理由を教えたところでどうなるわけでもないだろ。もういい時間だ。残りの仕事切り上げて、もう終わりにしていいぞ。お疲れ」


課長はそう言って、手早くパソコンのバックアップを取った後電源を落とし、ビジネスバッグを持って、席から立った。


えっ?


『理由を教えたところでどうなるわけでもない』って、どういう意味?


全く応えになっていない課長の言葉に、頭の中がクエスチョンマークだらけになった。

「あ、あの、待って、」


『待って下さい』と、私が呼び止める前に、課長は足早に私を通り過ぎて、フロアを出て行ってしまう。


課長……、行っちゃった……。


私の仕事の最終確認もせずに、先に帰ってしまうのは、今まで無いことでとても珍しいことだった。


課長が見えなくなっても、私は、フロアから、照明が落とされた薄暗い廊下の先を見つめていた。


もう、本当になんなんだろう。


昨日も、それから今日も。


たった一日なのに、三年間見てきた課長と違いすぎて、いつもの課長と違いすぎて、新しい一面を知っても余計、課長が分からない。


しばらくして、とりあえず目の前の仕事を片付けて帰宅しようと、私はパソコンに向き直り、先程以上に悶々としたまま、仕事を終わらせた。