「かして」
突然背後から低い声が聞こえてビクッとした。すぐそばに感じる体温。ふと横目に見えたのは、整った横顔。
「み、水野君」
手から黒板消しが奪い取られ、その時指先が軽くその人に触れて、ドキンと胸が高鳴る。
私がどれだけ格闘しても消えなかった黒板の文字を、いとも簡単に消していく。
触れた指先がジンジンする。
水野君はあっという間に黒板を綺麗にし終えると、手についたチョークの粉をサッと払って、黒板消しをクリーナーにかけてくれた。
「あ、ありがとう」
「チビのくせに、無謀なことすんなよ」
「チ、チビって言わないでよ。気にしてるんだから」
相変わらず失礼なことばかり言うよね、水野君って。
だけどそんな水野君にドキドキしてる私は、どうかしている。
『ズバリ、恋でしょ』
ううん——ちがう。
……ちがう。
『ふとした時に好きだと気づくこともあるよ』
そんなわけない。
えーい、消えろ邪念。
そんなんじゃないんだから!
「そういえば……水野君は夏休みはどっか行くの?」
他愛ない話題を振って邪念を消そうとしてみる。
クリーナーをかけながら、水野君は私をチラ見してポツリとつぶやいた。
「べつに、どこも」
「夏休みだよ? 海は? 花火大会は?」
「そんなくだらないところに、俺が行くと思うのかよ?」
「えっ、それは……なんとも言えない」
なんとなく人が多い場所は苦手そうな気がするし、イベントごとに興味がなさそう。
「ま、行くけどな」
「行くんかいっ!」
思わず突っ込んでしまった。