「こんばんは。ちょっと見せてください」

「ええ、どうぞごゆっくり。今日は珍しくおひとりではないのですね」

 愛想のいい男性は紳士的に微笑む。社長も黙って微笑み返した。私は挨拶を交わす彼らを放っておき、飾られている絵画をひとつずつ鑑賞する。

 知っている作家の作品も、そうでない作品もあった。本物もあれば模写も、リトグラフもある。

「なかなかいい作品が揃っているだろう?」

 食い入るように絵を見つめていた私の横に立って、社長が囁きかける。

「ええ、素晴らしいものばかりです」

 模写でも、営利目的で適当に描かれたものはひとつもないように感じる。それぞれに、画家の魂が色になって見えるようだった。ここの社長がそういうものを選んで仕入れてくるのだろう。

「うちとは違う……」

 思わずそう零していた。頭の中には、実家のギャラリー。横川円次郎の作品しか扱っていない、おばあちゃんの趣味の延長のような画廊。

 この多種多様な作品を扱う画廊を見てしまうと、実家がとても独りよがりなものに思える。多くのお客さんを迎える気なんてさらさらなく、来てくれる人は横川円次郎を好きな人に限られている。