「貴方が生きたいと願い続ける限り、身体は治そうとするわ。貴方自身がこの生を諦めたら、そこで終わりだけど」


「……」


暫く、沈黙が流れた。


そんな静かな、雨の音が聞こえる中で、次に口を開いたのは黎祥だった。


「……翠蓮」


「なあに?」


体の傷にも薬を塗り、包帯を巻く。


相手が男の人な分、巻くのは大変。


頑張って腕を回している最中に呼ばれた、名前。


視線だけ上向けると、


「お前はどうして、薬師になったんだ」


と、尋ねられた。


翠蓮は現在、17歳。


普通なら、もう、お嫁に行かないといけない歳。


けれど、翠蓮は結婚で自分の人生が縛られるのは、真っ平御免だと考える人間だった。


「やはり、流行病が原因か?」


「んー、そうね。それで、お母様と弟妹を救えなかったからかも」


さっき、わざわざずらしたのに……図らずに、家族の話に戻ってしまった……。


翠蓮が素直に答えると、


「―さっき、冤罪と言ったな。父上はそれで?」


と、聞かれた。


翠蓮はこうなったら、と、また、素直に頷いた。


「毒にも薬にもならないような人だったんだけどね」


今でも、思う。


どうして、お母さん達を救えなかったのかと。


どうして、お父さんの冤罪を晴らせなかったのかと。