結果、医務室なんて大袈裟で、ただ絆創膏を貼れば済む話だった。
 それなのに支社長直々に医務室なんて……。

 誰に何を言われるか分かったもんじゃない。

 日頃の残業で麻痺していたけれど既婚者の人でさえ目が眩んで飛ばされてしまうくらいの倉林支社長だ。
 その人に手を引かれ歩いていれば否が応でも目立っていたことだろう。

 実際、視線が突き刺さって、それだけで致死量に達していたと思う。
 職場に戻るのが怖い。

「大したことなくて良かった。」

 医務室の結果を受けて倉林支社長は安堵の表情を浮かべた。

 こっちはこっちで極上の笑みを浮かべられて生きた心地がしない。
 当の本人は気にもしていないのは言うまでもなかった。

「紙の怪我よりもっと怖ろしいものが……。」

「ん?どうした?」

「いえ。なんでもありません。」

 どうかこの罪深い彼に誰か思い知らせてやってください。
 彼の不用意な行動で一庶民の命の危機が訪れるということを。