仕事は山のようにある。
 未処理のファイルの山を視界にとらえるとため息が出そうだ。

 倉林支社長の周りには既婚者の女性しか残らなかったと聞いた。
 それは必然的に子持ちのお母さん達になり得るということだ。

 松山さん、河内さんもそうだった。
 松山さんはお子さんが3人。河内さんも2人お子さんがいる。

 河内さんのお子さんはまだ小さくて時短勤務だし、お二人とも子どもの体調が悪くなれば帰らなきゃいけない。

 だからこその独身の私に白羽の矢が立ったのでは?と思わなくもない。
 子持ちの人達だけで業務をこなすには時間的に無理があると思う。

「いつもありがとね。
 花音ちゃんが来てくれて私達も助かってるわ。」

 松山さんが私のデスクに置いてあった未処理のファイルを数件持っていってくれる。

「私も。うちの子がまだ見ぬ花音ちゃんに会いたいって言ってるわよ?
 綺麗な可愛い子よって言ったらお姫様なのね!って興奮してたんだから。」

 河内さんも私の仕事を数件手にして笑う。

「無茶振りやめてください。
 会うのが怖いです。プレッシャーですよ。
 私こそ仕事まだまだで普段は手伝っていただいてばかりで。」

「その分、私達がどうにもならない時に残ってくれてるわ。」

 持ちつ持たれつで仕事を分担する今の関係に心地良さを感じた。
 森野電機の頃のなんでも一人でこなす達成感とは違った充足感を感じていた。