まだまだ積み上がる。腰が抜けて立ち上がれない。
このままではうさぎの毛に飲み込まれてしまう。それでも動けない。
 受付嬢の姿は私にはもう見えない。

そして、私は、気がついた、

手渡されたキグルミが温かい事に。
このキグルミも顔の部分がちぎり取られていたが、あるはずのない顔でこちらをじっと見ている。

ないけど、ある

見えないけど、見える

見られている


 そうこうしているうちに、毛が口元まで来た。このままでは死んでしまう。逃げたい。でも、逃げるところも溶けてしまった。その溶けた風景が右手の指先にドロドロと触れる。やっと追いついた、と言わんばかりだ。
風景が手を伝って全身にまわっていく。



 うさぎの毛はもう私の視界を塞ごうとしている。全身飲み込まれるのも時間の問題だ。私は目を閉じる。溶けた風景がうさぎの毛のあいだに絡みついている。私もうさぎの毛もうさぎ小屋さえもドロドロと溶けてゆく。

私が最後に見たものは、私に手渡されたはずの空っぽのキグルミが立ち上がって、自分の毛をむしりだしたところだった。

私を見ながら、

無表情で、

楽しそうに

そして、私の顔の出ている部分に毛の塊をそっと載せた。


白いふわふわの毛はシャンプーの匂いがした。