うんうん唸っていると、急に肩に手を置かれた。

「随分仕事熱心だな。何やってんの」

「わあ!」

慌てて新ホテルの情報を検索していた画面を最小化する。会社のパソコンを私用に使うのは禁止されているからだ。

マウスをにぎる手の横に、ぽんとチョコレートの箱が置かれた。

「最近昼もまともに食ってないみたいだけど。大丈夫?」

振り返ると、同じ部署で二つ年上の松倉先輩が立っていた。

少し茶色がかった髪、丸くて黒いプラスチックのメガネに細身のスーツ。顔の作りがものすごくいいわけではないけど、髪型や小物に気を使っているのでイケメンに見える。

「先輩こそ、忙しそうじゃないですか」

松倉先輩は仕事ができるそうで、高級ホテルのデザインにも携わっている。決して幼児ルームを担当させられたりしない人物。

高級ホテルに置くものは、一流のものでなくてはならない。あの悪役社長はそういう考えらしく、松倉先輩はよく海外出張までして、それぞれの部屋に合うソファやベッドを探しに行かされている。

景気よく出張費を出してもらえるのも、松倉先輩の仕事ぶりが評価されているからこそだけど……ああ、羨ましい。私もこういう社員になれたらなあ。