「だからあの通過儀礼を?」

「通過儀礼って。面白いこと言うわね。」

「初日の洗礼って感じでしょ?」

 なかなかパンチのある洗礼だったな。
 簡単と踏んではいたものの返り討ちにあったような気分になったりもしたし、初日からやっていけるか心配になったもの。

「途中から女性の恒例行事になりはしたけど、そもそもトラブル続きでうんざりしたんでしょうね。
 トラブルを起こさなかった女性社員以外は配置換え。
 だから残ったのは既婚者ばかり。」

 そっか、それなら安心か……。
 そう思ったのも束の間、もっと驚くことをサラリと松山さんが付け加えた。

「既婚者だって目が眩んで飛ばされた人もいるんだから。」

 どこまで……。
 私はため息をつきそうになって肩を竦めた。

 だから秘書もつけないのかな。

 秘書と言えば若い女性のイメージだ。
 常に行動をともにするだろうし、彼と常に一緒なんて普通の女性が公私を弁えるのは難しいだろう。

 なんとなく複雑な心持ちになって食べるタイミングを失った野菜スープを気もなくかき混ぜてみる。
 沈んでいたキャベツが浮かんではまた沈んだ。

「ま、田舎の会社では刺激が強いわよね。
 都会ならまだしもなかなか出会えないタイプだからね〜。」

 確かに浮世離れした人ではあるけれど!
 それはそれ。これはこれ。

 私は自分自身にも言い聞かせるように心の中で呟いた。

 河内さんは続けて、私が感じた倉林支社長の最初の頃の印象そのものを明言化した。