「――天音!」

わたしはテーブルに手をついて勢いよく立ち上がった。

自分の書いた過去に、暗い顔でじっと視線を落としていた天音が、弾かれたように顔を上げた。

その目は驚きに見開かれている。

「天音……わたし、今から勝手なことする」

わたしの唐突な宣言に、彼がぽかんと口を開いた。

「この前も勝手なことして、それで天音を傷つけちゃったって自覚してるけど、でもどうせ一回やっちゃったことなんだから、二回やったって同じだよね。どうせ嫌われるようたこと一回やっちゃったんだから、それはもう消せないもん、二回やっても嫌われるのは同じだよね」

天音は唖然としている。その顔を見ながら、わたしは覚悟を決める。

天音にひどく嫌な思いをさせるかもしれない。今度こそ取り返しがつかないくらい嫌われてしまうかもしれない。

それでもいい、と思った。

今までわたしは、嫌われたくない、できれば好かれたい、いい子と思われたい、ということばかり考えて、人を不用意に傷つけて嫌われたりしないように、細心の注意を払って生きてきた。

周りの顔色を窺って、不機嫌にさせないように気を使って、周りと話を合わせて、自分の意見は言わない。そうやって生きてきた。

でも今は、そんなことはどうだっていい、と大声で言える。

天音に嫌がられても、嫌われても、気にしない。

わたしがどう思われるとしても、天音を救える可能性があることなら何だってやる。

「天音、ついてきて」

わたしはそう言って彼を立ち上がらせると、怪訝な顔をする天音の手をぐいぐいと引いて翔希くんの部屋に行った。