「やっとテスト終わったねえ。天音どうだった?」

近くのショッピングモールに向かって歩きながら訊ねると、天音は微笑みながら小さく頷いた。

「えー、その顔は、手応えあるんだなー?」

彼は少し眉を上げておどけたような表情をして笑い、また頷いた。

「そっかー、いいなー。わたしなんか、相変わらず数学が全っ然解けなかったよー、破滅的な点数が目に見える……テスト返却が恐怖だよ……」

がっくりと肩を落としてみせたとき、ちょうど目の前の歩行者信号が赤に変わった。二人で立ち止まる。

すると、信号待ちの間に天音がコートのポケットからノートとペンを取り出した。

何か慰めの言葉を書いてくれるのかと思って、期待に胸を膨らませながら覗きこんだら、そこにあったのは、

『自業自得』

の文字。数学のテスト前日の夜に、勉強からの現実逃避でスマホをいじっていたら寝落ちしてしまった、というのを彼には話していた。

それにしたって、冷たい答えだ。

「それ、わざわざ書くほどのこと!?」

いじけた顔で見上げると、天音はおかしそうに肩を揺らして笑った。それから、また何かを書く。

『テストお疲れ様』

意地悪なことを言った後に、こうやって優しいことを言うんだから、睨もうにも睨めなくなってしまう。絶対わざとだ、悪いやつ。飴とムチってこれか、と感心してしまった。

「天音も、テストお疲れ様。お互い頑張ったね」

彼はにこりと笑った。そこで信号が青に変わったので、再び目的地に向かって歩き出す。

隣の天音は、当たり前だけれど私服を着ている。普段は制服で会っているので、なんだか新鮮だ。最初に出会った時は確か制服ではなかったけれど、泣いていたのと驚いたのとで混乱していたので、あまりちゃんと見ていなくて記憶がおぼろげだ。

今日の天音は、白いシャツの上に黒いコートをはおって、デニム地のジーンズをはいていた。シンプルな格好だけれど、ほっそりとして色白な彼にはよく似合う。無彩色の服のおかげで、金色に透ける髪と緑がかった薄茶の瞳の鮮やかさが際立っていた。

わたしは白のブラウスと黒のスカートを着て、ベージュのダッフルコートと焦げ茶色のブーツを組み合わせている。雑誌で見て可愛いなと思った格好を真似してみた。

天音の飾らない格好に比べて、なんだか気合いが入りすぎているようで恥ずかしい。失恋以来ずっとふさぎこんでいたせいで街に出るのは久しぶりだったので、張り切ってしまった。