「……ねえ、もう一度、歌ってくれる?」

気がついたらそんな言葉が口から飛び出していた。

天音は一瞬、驚いたように目を丸くしてから、軽く唇を噛んで眉をひそめる。

彼はすうっと息を吸い込んで、ゆっくりと息を吐いた。

右手でそっと喉元に触れて、祈るように瞼を閉じる。

それから小さく首を振った。

唇が何かを言うように微かに震えたけれど、声にはならなかった。

でも、その唇は『だめだ』という形に動いたように、わたしには見えた。

「……どうしたの?」

そっと訊ねると、彼はゆっくりとわたしのほうに顔を向けて、悲しそうに微笑んだ。

言葉を失っている私をよそに、天音がゆっくりと立ち上がり、わたしに向かって頭を下げた。

反射的にわたしも会釈を返す。

天音はひらひらとわたしに手を振って、冬の冷たい空気の中をゆらゆらと泳ぐようにして公園を出ていった。

残されたわたしは、彼の消えたあとの気配をたどるように、いつまでも彼が去っていったほうを見つめていた。