研究室に入ると、ラフな服装をした若い男性が眠そうな表情で座っている。
彼は、私たちに気付くと、すぐに立ち上がった。

「皆さん初めまして。今回の実験をサポートをする大学院生の清水です。よろしくお願いします。」

ふわりと優しい表情をしているが、切れ長の目もとがキリッとしていてかっこいい。テレビドラマの研究者役にいそうだ。

「色んな器具とか機械があるから、一通り見てみよう。」

私たちは清水さんのまわりに集まった。
水の入った四角い機械の中でいくつかの試験管が揺すられている。

「この機械に水を入れると一定の温度を保つことが出来るんだ。そのなかに試験管を入れて反応を進めているところ。」

横のタイマーには残り五十五分と表示されている。高校のスピーディーに終わる実験しか知らない私には未知の領域だ。

続いて、半透明の白いもの詰まった太いガラス管の前にきた。

「これはカラムクロマトグラフィーだね。色んな物質が混ざった液体を上から注ぐと、それぞれを分離できる。物質によって下に流出する速さがちがうんだ。」

隣にある実験中の筒には、黄色や緑色をした縞模様が浮かんでいた。管の下は細くすぼまっていて、液体がポタポタと滴り落ちている。


今度は、奇妙な機械の前に集まった。

上部は、細長いガラスの中に細い管が渦を巻いている。下部は二股にわかれ、右方には、お湯に浸かってくるくると回るナス型のフラスコ、左方には、液体がたまった大きな丸いガラス容器がついている。

「これは、ロータリーエバポレーター。真空ポンプで減圧しながら、フラスコ中の溶媒を蒸発させているんだ。蒸発した溶媒は、冷却されて、液体に戻る。」

左の丸いガラス容器は、液体に戻った溶媒を受ける容器だと説明された。
清水さんが、上部のガラス管の渦のある部分をさわりながら言った。

「ここが冷却装置。触ってごらん。」

恐る恐る触ってみる。かなりの冷たさだ。

私は、こんなザ・理系といった機械にわくわくしつつも、様々な機械を使いこなして実験するなんて自分には無理だなと感じていた。
なんだか清水さんがとても遠い人に思えた。