「よくやったわ。
 支社長ってば西村さんみたいな美人さんを持ってしても誘惑されないってよっぽどね。」

 松山さんは膨よかな体を揺らして笑う。
 年配の方で人好きしそうな、失礼な表現をすれば近所のオバチャンという感じだ。

「本当に。
 久々の若い子だからイケるんじゃないかって思ったのにね。」

 河内さんはショートカットがよく似合うキツめの顔つき。
 年は近そうだけど私のことを若い子と言う辺り、年上なのだろう。

「取って喰われるわけでもないんだから支社長ったら食事くらい行けばいいのに。」

 いえ。
 あれで食事の誘いに乗られてもこっちが困ります。

 心の声は口に出さないまま、二人の会話の聞き役にひたすら徹した。

「ま、これで西村さんも変な気を起こさないで明日からの仕事、頑張ってね。」

 あっけらかんと言って手を振って帰っていく二人に「お疲れ様です」と頭を下げた。

 一人残された更衣室でため息をついた。
 倉林支社長の意見に同意したい気分だった。
 彼にしてみれば完全なる戯言だろう。