でも、チョコレート職人のおばちゃんはさ、そんなに凄い人って思えないんだよね。
あたし、その人に小さい頃は育ててもらったし。
両親が忙しかったから良く面倒みてくれてたんだ。
だから、身近すぎてよくわかんない。
おばちゃんのことならなんでも知ってる。
独学で勉強して店を開いて、誰の下にもつかない強者で。
大口開けて笑ういいおばさんって言えば、だいたいの説明終わっちゃうんだけどね。
なんでと聞けば性に合わないだとか。
いつもガハガハ大声で笑いながら、繊細な作業をこなすおばさんには、たしかにそれは合わないのかも。
おばちゃんは今、東京にいて。
決して東京から近いとは言えないこの街にあたしを育ててくれてた頃のように戻ってこれることはあまりない。
でも、必ずお母さんの誕生日だけは忘れない。
特別な絆で結ばれてるようで、お母さんもおばちゃんの誕生日は忘れないんだ。
去年はなにあげたらいい?って相談されたくらいだしね。
今年もおばちゃんは、ちゃんと忘れないでいてくれたんだけど…。
「あー、うん。凄いっちゃすごいんだけど。お母さんの誕生日になると大量のチョコが贈られてくるのよ。毎年食べきれなくて、捨てちゃって」
「なんか、話がよめてきた」
「あー、ここまでくるとわかるよね。そう、今年も残っちゃって余り物っていうと言い方酷いけど、もらってくれないかなーって」
「でもいいの?人からもらったものを貰っても」
細野が少し眉根を寄せて、申し訳なさそうにこちらを見て、まずいと思った。