「俺、菜子と出会えて良かったよ」
「なにそれ、なおちゃん、変なの」
菜子の瞳が僅かに潤む。それが分かっていたけど、俺はオレンジが深くなった空に目をやった。
東の端にはもう深い藍色が迫って、今日という日の終わりを告げようとしている。
その中で、ひぐらしの声が幾重にも響く。
それは夏が崩れていく音だった。
今見ているものも、今考えていることも、今感じていることも、全部、記憶の中で遠く霞んでいく。
菜子と過ごしたことも、きっと。
それでも不意に今日のことを思い出して、何度も胸が痛むだろう。
その度に菜子を好きだと思うだろう。
そうやってこの先、何度でも俺は夏が崩れた恋の痛みに触れる。
そうやって生きていくんだなって思った。
カナ カナ カナ と鳴く蜩(ひぐらし)の声は、耳にこびりつくように、いつまでも響いていた。
fin.
「なにそれ、なおちゃん、変なの」
菜子の瞳が僅かに潤む。それが分かっていたけど、俺はオレンジが深くなった空に目をやった。
東の端にはもう深い藍色が迫って、今日という日の終わりを告げようとしている。
その中で、ひぐらしの声が幾重にも響く。
それは夏が崩れていく音だった。
今見ているものも、今考えていることも、今感じていることも、全部、記憶の中で遠く霞んでいく。
菜子と過ごしたことも、きっと。
それでも不意に今日のことを思い出して、何度も胸が痛むだろう。
その度に菜子を好きだと思うだろう。
そうやってこの先、何度でも俺は夏が崩れた恋の痛みに触れる。
そうやって生きていくんだなって思った。
カナ カナ カナ と鳴く蜩(ひぐらし)の声は、耳にこびりつくように、いつまでも響いていた。
fin.