「そうなの!?どうして!?」


「先日あっさりと辞表を出したように、高柳さんは組織や立場には執着がありません。」


「……選べる人の余裕ってヤツね」


確かに高柳さんならどの企業でも好待遇で迎えるに違いない。ヘッドハンティングとかされるんだろうなぁ。


「エヴァーに入社したのもただの成り行きです。

恐るべきことに、高柳さんは将来的に婚約者の企業を支えることを望んでいるのですよ。」


夏雪はまるで国を憂いだ騎士のように切々と語っている。高柳さんがエヴァーにずっと勤めるつもりが無いのが相当悲しいらしい。

個人的には会社より高柳さんの婚約者が気になるけれど………


「婚約者の人って社長なんだ……。やっぱり住む世界が違うね。」


「いいえ、違います。

その女が将来的に起業する会社に入りたいとか抜かしてるんですよ、ふざけたことに。」


ん?


言葉の端々がおかしい。いよいよ不穏だ。

部下とはいえ、大事な先輩の彼女を『その女』呼ばわり。



「高柳さんが素人経営の零細企業に勤めるなど馬鹿げている。許しがたいオーバースペック。社会の損失。 」


「つまりあれね、会社から高柳さんを奪おうとしている婚約者の人に嫉妬してるってことね。」


眉間にシワを寄せた夏雪が「これは重要な経営課題です」と前置きした。憂い顔が無駄に絵になる。


「俺は生涯、高柳さんを手放すつもりはありません。」


うわぁ………


愛が重すぎる。高柳さんへの。


『エヴァーグリーンのために』を略しているせいで、プロポーズにしか聞こえない。


「それ本人には言わないほうがいいよ?」


ドン引きされると思うから。


「俺の意思は何度も宣告していますが、いつも苦笑いするばかりで回答を濁されるんですよ。」


………遅かったか………。


高柳さん、心中お察し申し上げます。夏雪シンデレラは高柳王子に御執心だそうです。

だんだん私の恋のライバルは高柳さんなんじゃないかなと思えてくる。


「話を戻すと、エヴァーのために高柳さんの婚約者の起業を止めたい。

その女を懐柔した上で秘密裏に説得し、浮わついた夢を砕くのです」



完全に悪巧みの笑いを浮かべる夏雪に、これはヤバイと確信した。


「…………その会、私も参加するわ」


行って婚約者の人を守らないとマズイことになる。