「だよな」


「楽しそうなのは分かるんだけど、あんたには琴音がいるんだから」


「たとえばの話だろ?」


「まあね」


その“たとえば”が本当に起こればいいのに、なんて思ってしまっていることは秘密だ。


どんなに想いを押し殺しても消えてくれない。
置いてきぼりの未完成の恋はどこに向かいどこに辿り着くのだろうか。


「あ、もう着いた。
ナツと過ごしてたらなんかあっという間だな」


気がつくともう私の家まで歩いていた。

話すのに夢中だったからサキに買ってもらったサイダーは一口くらいしか減っていなかった。


「ひさしぶりに楽しかった」


「また明日な」


「うん、また明日ね」


自分の家に帰っていくサキの背中を目に焼き付ける。


大丈夫、また明日も会える。
これでサヨナラじゃないから。


───あの愛おしい背中に後ろからぎゅっと抱きつけるのは、私じゃない。


そう思うと、不思議と涙で視界が滲み、サイダーのペットボトルをぎゅっと握りしめた。


「嫌いになれたらいいのに…っ」


絶対になれないことくらいわかっているけど、どこにぶつけていいのか分からない苦しさから無駄な願いをそっと吐き出し、それは薄暗い闇の中に虚しく消えていった。