『はー、本当にめんどくさがり屋だよね』


『ナツも人のこと言えねぇからな』


『うるさい』


『ちょ、頭に桜の花びらついてる』


そう言って、彼は私の頭に手を伸ばし、薄紅色の可愛くて小さな花びらを取ってくれたんだ。


『ありがと』


『ん。それにしても
今年も綺麗に咲いたよな』


満開の桜を見つめている彼の横顔は
思わず、見とれてしまいそうなほど綺麗で
私の鼓動はうるさいくらいに高鳴った。


何気ない会話でさえ、愛しく思えて
彼は私の青春、そのものだったんだ。







「…ちゃん……なっちゃん?」


おばあちゃんに
名前を呼ばれてハッと我に返った。


ダメだ。この街には思い出が多すぎる。
どこを歩いたって彼の面影を探してしまう。


「ごめん、考え事してた」


「そう……」


おばあちゃんはぎこちなく笑うと再び歩き始めた。


また、会えるのかな?

でも、会ったとしても
私のことを覚えているかな?

それ以前に私は彼と会ってどうしたいの?

ここを出る前みたいな関係に戻りたいの?


違う。もう昔みたいには戻れない。
三年も経てば人は変わってしまう。
何も言わずに出ていった私のことなんて彼は許してくれないだろう。