力が入るあまり一歩、また一歩と距離を詰めてくるアレフの身体を軽く押し返して、オルキスは庭へと視線を戻した。


「運命の乙女の条件は髪と目の色だけじゃない。恋に落ちるのも条件の一つだったはずだ。彼女が俺に恋をするかどうかまでは分からない」

「……オルキス様の方はどうなんですか? 黄金色の髪に深緑の瞳を持つ他の多くの女性よりも、リリアさんは特別に見えましたか?」

「さあ、どうかな」


さらりとはぐらかされて、アレフは「オルキス様!」と歯がゆい気持ちをたっぷりと込めてその名を呼んだ。

無表情で庭を見つめていたオルキスが、何かに反応するように組んでいた腕を解き、わずかに口角を上げた。

アレフも何事かと窓の向こうへと目を向けると、すぐにアレグロの隣にいる外套を羽織ったリリアの姿を見つける。

すると、何気ない様子でこちらへと顔を向けたリリアがオルキスの姿に気がつき、笑顔で大きく手を振ってきた。

リリアのあまりにも気安い態度にアレフの方が畏縮してしまうが、やはり今回もオルキスが気に障ったというような素振りを見せることはなかった。

むしろ、穏やかな眼差しでリリアを見つめ返し、手も振り返している。