おじいちゃんが死んでしばらく、元気がなくなってしまった頃の彼女を思い出す。このギャラリーを開いて、少しだけど彼女のお菓子やお茶を目当てに訪れる人がいて、やっと元気になったところなのに。

「わかりました。やります」

彼女から、生きる希望を奪ってはいけない。

「相応しい絵を探します」

決然と言い放った私を、社長は目を細めて見た。新しいおもちゃを見つけた子供……いや、獲物を見つけた獣のように黒い瞳が輝く。

「よし、決まりだ。せいぜい頑張れよ。ああ、普段の仕事はきっちりやりつつ、だから。当たり前だよな」

さっさとバッグにタブレットをしまい、クッキーを口に放り込んで咀嚼し、飲み込むと彼は空になっていたカップを掲げた。

「もう一杯いただけますか。あなたのコーヒーは絶品ですから」

にっこりとおばちゃんに向かって微笑む西明寺社長。黒っぽいスーツを纏った彼の姿が、私には本気で悪魔、あるいは死神にしか見えなかった。

オプションで彼の背後に、ロダンの彫刻『地獄の門』が見えた気がした。