私、市ノ瀬雪菜(いちのせ ゆきな)は真面目だけが取り柄のごく普通の高校二年生。


背中まで伸ばした長い髪は、真っ黒く、クセのないストレートで、基本的にいつも下ろしている。


肌が色白なため「雪菜」って名前がぴったりだと友達によく言われるけど、実は雪の降る冬生まれではなく、春生まれ。


でも、自分の名前は結構気に入っている。


昔から感情を表に出すのが苦手で、親しい人以外の前ではあまりニコニコ笑うことができないから、時々「冷めてる」とか「クール」だなんて言われてしまうこともあって、それが悩みだったりもして。


読書が趣味で、いつも教室でひっそりと本を読んでいることが多いから、クラスでもどちらかというと目立たないほうだと思う。


「雪菜(ゆきな)、おっはよー!」


すると、その時ふと大きな声で名前を呼ばれて、私は文庫本から目を離し、顔を上げた。


見ると、親友の璃子(りこ)が手を上げながら満面の笑みを浮かべている。