帳 梨乃side

早苗と話せなくなって三日目。

ダンスの方は、早苗に直接的に教えてもらえるわけがなく、
早苗は上手に私を避ける。


それがかなり傷つく。


でも何とかうまく踊れるようにはなって来てるかな。


「じゃあそろそろ社交ダンスの方に入りたいんだけど、ペアどうする?」

阿久津先輩がそう聞く。


「えっと…私は…」


誰でもいいですよ。そう言おうとしたんだけど…


スッ


腕を引かれくっ付いてしまう。
距、距離が近い…


「先輩、僕たち一緒で良いですか?」


「え?功?」


周りも私たちがくっついてるからか、少し間がある。…

これはどういう間ですか?



「あー!良いじゃん、幼馴染コンビで。」

沈黙を破ったのは三宅先輩。

「じゃあ花音は阿久津先輩とが良い!」

「へっ、あ、お、おう。」


明らかに気にくわなさそうな阿久津先輩…

ごめんなさい…


「おし、じゃあ決まり!アシスタントの方も決めといてね!」


「梨乃、よろしくね。」

「うん!功とできるなんて、夢見たい!」


「何で?いつも一緒にいるのに、」


「ううん。特別だよ。」


「そっか。」

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「僕がこう手を持つから、そしたら梨乃は…こうなって…」


そして私は言われるがままに功の手を握る。

そして腕を動かされるたび近くなる距離にドキドキと胸が高鳴る。


「梨乃…?さっきからずっと無言だけど大丈夫?」

「へっ?あ、うん。大丈夫。」


「そ。
で、ラストは僕が梨乃を持ち上げると。」


そう言って功は、私を腰元から、持ち上げ、私がポーズをとる。


「功、意外と力持ちなんだね。」


「そうかな。梨乃が軽いだけ。」


「またまた、褒めても何も出ませんよ?」


「褒めたら梨乃、ハグしてくれる?」


「え?…うーん。良いよ?」


そんな事聞くなんて、
功は絶対天然のタラシだ。


「梨乃は可愛い。」


「えっ?早速?」


「うん。早速。」


功は、後ろから私に抱きつく。


「えっ!い、今?」

思わず動揺を隠しきれない。
だってみんな見てるよ?


「ダメだった?」



「みんな…居るから…。」



「多分みんな集中してるから誰も見てないよ?」


功は呑気にそんな事を言う。

「あ、本当だ。」


でもそういう問題でもないんだよ。
みんなの前だとかなり恥ずかしさもあるじゃないですか、功さん。



背中を通して伝わってくる功の温もりは私を包み込んで決して離さない。


しっかり筋肉のある腕はやっぱり男の人なんだなって感じさせられる。


少し急にこういった事をしてくる功にときめいてしまう私はよっぽどで……。


「功の腕、暖かい。」


「うん。」

功は頷くだけ頷いて、
私の首に顔をうずめた。


呼吸の音が直で感じられる。


それが少しくすぐったいのかもよく分かんないけど、功といると落ち着くんだ。


早くこの能天気に気持ちが伝われば良いのに。

でも功は、誰とも付き合わないからきっと振られる。

やっぱり言えない。好きの2文字が。