朧の言っていることは理解できた3人だが、詳しくは分からない。

すると、次は円が口を開いた。

「私の魔法の中に、範囲を指定して他の人の魔法を発動させるものがあるのだけど。

私のリング状の魔法陣に過去へ行く能力を使って、その魔法陣の中だけ過去に行かせるの。

そして、その中で情報を消滅させればいいと思うわよ。

過去に戻る範囲がぐんと狭くなるから負担はそんなにかからないはず。

それに、私のこの魔法陣や魔法は感知出来ないから最高にいいわよ。」

円は自慢げに言ってレイリに問う。
やるのか? と。

「……行けそうですね」

答えは やる みたいで、円は上機嫌で頷いた。

「それじゃあ早速しようか!

……我が名にかけて我が知己の魔法を広めよ

写しの円 (うつしのまどか)」

円がそう詠唱し左手を前にかざすと、あのフラフープのような魔法陣が現れた。

ただ、その色は緑ではなく白色であった。

何も染まっていない真っ白な魔法陣を円は手をかざすことをやめ、レイリに渡す。

「レイリちゃんはそのままこの魔法陣に向かって魔法を放てばいいわ。」

さぁさぁ と円はレイリを魔法陣の前に誘導する。

「ナナニカ過去へ送ってください。…スタート」

レイリがそう言うと白色の魔法陣は黄色へと変化し、魔法陣の中心は虹色に輝いた。

「……着きました。グリムズの情報が入ってきた日の夜です。」

円の魔法陣の中には過去のこの部屋が映し出されていた。

その風景は今とそんなに変わらない。
暗い部屋に情報が書かれた紙がファイルに入って並べられている。

ただ、違うのはまだ魔法文字で書かれていないという所だけだろうか。

「…向こうには誰もいないようですね。」

レイリは部屋に誰もいないことを確認し、そのファイルに手を伸ばした。

「…これで間違いはありませんね?」

レイリは情報が書かれている紙を蜘蔬に見せた。
このメンバーの中で実際に見たことがあるのはこの任務を持ってきた蜘蔬しか知らない。

蜘蔬はその紙を受け取り中の内容を読む。
そして、頷いた。

どうやら当たりのようだ。

「…よし。これで消滅出来たでしょう。」

朧は情報が書かれた紙を火属性の魔法で焼き他に情報が残っていないか調べた。

全てが終わったことで蜘蔬たちはグリムズへ行けることになった。

「さて、この止まった空間だから言えることですが…このままグリムズに来ることをオススメします。

私たちのリスクも減りますし、何より邪魔をするものがいませんから。」

朧は どうします? と問いかけてくる。
レイリたちはお互い目を合わせ、蜘蔬が代表で答えた。

「せやな。うちらもそうしたいんやけどなぁ。

1つだけ、どうしてもせなあかんことがあるんや。」

蜘蔬は苦笑いでそう言った。
それに、朧と円は首を傾げた。

「レイン…私たちの妹に封印魔法をしてから出ないとグリムズには行けません。」

そこで、レイリは説明をした。
自分たちの妹は自分と同じほどの魔力を持っている。

今はまだ発揮されていないが、高校生辺りにもなれば発揮されるだろう。

その魔力を封印したいというのだ。

「なぜそんなことを?」

朧はさらに理由を聞いた。
蜘蔬たちはまたお互い目を合わせたが、迷いなく言った。

「そりゃ、可愛ええからやろ。
妹は泣いてばっかりでうるそぅて仕方ない…

それでも可愛ええもんやで」

「…そんな妹に私たちみたいにこの部隊に入って欲しくない。」

蜘蔬たちは知ったのだ。
この部隊の裏を、この国の裏事情を。

それを正すことも出来なければ、逆にそれに加担してしまう。

そんな絶望を妹たちにさせたくない。
せめて、学院では楽しく過ごしてほしい。

「…分かりました。円、送ってあげてください。

それが済みましたら、あの時計塔に来てください。」

そこで、蜘蔬たちと朧、円は別れた。

そしてその後、蜘蔬たちはそれぞれ密かに実家に戻り家族に気づかれることなく妹に魔力封印の魔法を施した。

その封印の魔法陣はそれぞれが持つ髪飾りに施し、この魔法を解くには蜘蔬たちが死ぬか解除するかのみ。

「これを解除する時はうちらの最期か、妹たちが強くなったかや。ええな。」

蜘蔬がそう言うと、レイリと水無月は頷いた。

そして、3人はグリムズへと足を運んだ。