「えーーーー!?星馬に告白されたってほんと?!マジで?!」
「はいはい、ちょっと静かにして、葵」

ここまで驚かれるとは正直思ってなかった…

私の目の前で、私の親友である博多葵は、ポテチをポリポリと音をさせながら食べている。

「やばい、美味しい。限定味本気で愛してる!」

限定だろうがなかろうが、そんなに味って変わるものなのかな?

「陽菜も食べてみ?」
「私今ダイエット中なの!前も言ったじゃん…」
「ダイエットは明日からでいいの!」

葵の部屋はいつ来ても、中途半端な感じがする。

フローリングなのにちゃぶ台や座布団があったり、本と漫画が整理もされずごちゃごちゃに本棚に入れてあったりして。散らかり具合も、テキトーだ。

「はっ!もしかして、ダイエットしてるのって、星馬のため!?」

「それは絶対ちがーう!あいつに告られるより前に、ダイエット始めてたし」

私がいくら説明しても葵はニヤニヤ笑っている。

葵とは幼稚園以来の仲だ。奇跡的にずっと同じクラスで、中学校最後の年である今年も、やっぱり同じクラスだった。
私達はでこぼこコンビと言われる事が多い。皆がそう言いたくなるのもわかる。葵は末っ子キャラだけど私は、人に甘えることが苦手。葵はスポーツがよく出来て、私は成績が高いと言われる。好きなものも、育った環境も、共通点はほとんどないのに何故か仲良くなった。
「それにしても、陽菜が告白されるとはね……しかも相手が、あの星馬!」

おばあちゃんみたいなほぉーっとため息をつき、葵は小さい拍手をした。

「あ、それで返事は!?」
「それがさ……私サイテーなことしたから、気まずくて」
「サイテーなこと?」

こてんと首を傾げた葵が私の目を覗き込んだ。

「あのさ、もし、自分が勇気を出して告白したとするじゃん」
「うん」
「もし、相手に、『はあーーーーー!?』って言われたら、どう思う?」

葵は顔をしかめた。

「もう、一生のトラウマになりそう」
「だよね……」

大きくため息をついて膝を抱えた。

「え、何、もしかして、陽菜、はあ?って言っちゃったってこと?」
「うん……」

私は深く項垂れた。葵はさっきよりもさらに目をまん丸にして、「あちゃー」と言う。

「何でそうなったの?」
「あまりにも想定外な事過ぎて、パニクったんだよね」
「あー」
「もし嘘告で、本気にしたら恥ずかしいなーとか、色々考えちゃって」

もう、校外学習のことは思い出すだけで叫びたくなる。あの後、私は平静を保つのに必死で、でも意識がぶっ飛んでいて、何回も先生に注意された。

「陽菜自身は、星馬の事どう思ってるの?」
「少なくとも、恋愛感情は持ってないし、そもそも今まであんま関わりがなかったからさ」
「なるほどね。確かに関わりないわーあいつチャラいし」

クラスの中でいわゆる「普通」の位置にいる私達は、「上」「下」の子とも割と上手くやっていけるが、そこまで男子と話すキャラじゃないし、あまり喋った事がなかった。

「正直、ほんとに私のこと好きなのかなって思うんだよ。ほんとに、嘘告じゃないのかな」

葵にはそう言ったけど、実はそう思っていない。思い返してみれば、最近星馬とよく目があった。弁当を食べる時もなんだかんだ近くにいた気がする。

思い出せば思い出すほど、「あ、あの時…!」みたいなことが沢山あって、その度に、顔をしかめた。

「でも、今陽菜好きな人いないんでしょ?」
「まあね」
「今から星馬のことを好きになればいいじゃん!」
名案だ、と言いたいばかりに葵は目を輝かせて指をパチンと鳴らした。
「いやだ」
「何で?」
「私、ああいうやつタイプじゃないんだって。それに、意外に女子から人気あるじゃん?亜璃沙たちにグチグチ言われるのめんどくさい」
「ああ、あーちゃんか……」
亜璃沙はいかにもと言う感じの女王様タイプで、いじめまではしないけど悪口は結構いう女子のボスだ。
「だからね、私、星馬に嫌われるように行動することにしたの」
驚きすぎて口からポテチがポロッと落ちた葵を尻目に、私は1人で頷いた。

当分の学校生活のミッションは、「星馬に嫌われる」こと。

だったはずなのに……