遠ざかっていくエンジン音に、急にわけのわからない切なさが込み上げてきた。私は下駄を鳴らしながら道路に駆け戻った。


そこに信広さんの車はもうなく、深い静寂があるだけだった。


言葉では言い表せない感情の渦が押し寄せてきて、目の縁が熱くなった。


あの事故があってからおよそ初めて、心から楽しいと思える時間だった。


私が信広さんに向けていたのは、作り笑いでも愛想笑いでもなく、本物の笑顔だった。


彼と話している間だけは、自然に笑えた。過去の悲しみが薄らいでいくような気がした。


目を閉じると、さっきまで見ていた花火の光が、まぶたの裏で蘇った。


その光の残像に、夏の夜空を熱心に見つめる信広さんの横顔が重なって見えた。