「ねえ、テテ聞いて。超イケメンの先輩がね、私の事好きらしいの。

でもその先輩はね、作り笑顔が多くて、多分私酷いこと言っちゃったから、懲らしめられるんだと思う。えっと…それでね。…」


「梨乃、なんの心配事だよ。」


私と愛犬テテの
朝の大切な大切な会話を遮ったのは…


「功?え、朝起きれたんだ。」

珍しくも自分で起きた功。
そしてなぜか私の家に入ってきた功。


眠そうにしているわけでもない。
たまに見える、さわやかな功だった。



「梨乃、あいつと付き合うの?」

「え?」


阿久津先輩の事をあいつ呼びとは。
功も中々の強者だ。

「だから、その先輩と付き合うの?」


「つ、付き合う?それ以前の問題だよ。」


「でもそいつは梨乃のこと好きなんでしょ?」


「…。私は誰とも付き合わないの。
功もよく知ってるでしょ?私は、誰かを愛そうとも、誰かに愛されたいとも思ってないから。」


「ごめん、そうだよな……。」

功はそういうと、うつむいてしまった。


「功…。」


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3年前

その時私たちは中1で、一緒に下校していた。



「功、今日は梨乃の家でご飯食べようよ!」


「うん。梨乃のお母さんの料理僕好きだよ。」


「本当?お母さんに言っとくね!きっと喜ぶよ。」


そういって仲の良い私たちは家の中へと入っていく。玄関にはお父さんと…見当たらない人の靴。


でもヒールだから、お母さんの新しいのかな?


それ以外、なんの違和感も覚えず私たちはリビングへ向かった。


そこには…

見知らぬ女の人とお父さんが…キスしているところだった。

ソファに押し倒された女の人と、とても幸せそうにほほえむお父さん。


お母さんの前では、喧嘩ばっかでそんな顔一切見せなかった。


その光景は中1になったばっかの私にとって、衝撃的なものだった。


だから余計、裏切られた感覚が強かったんだ。


「お父さん…なんで?…」


思ったよりもか細い声が喉を伝う。
それを見た功は


「梨乃、見るなっ。」


咄嗟に私の目を覆う。


でも、見てしまったんだ。その瞬間、私にとって

永遠の愛

なんていう言葉が架空のものになったのは、
言うまでもない。


その後両親が離婚し、
兄さんは反抗期真っ只中で、
お母さんは鬱とヒステリックの繰り返し。

家庭環境は、最悪でとてもその空気に入れるような感じではなかった。


ううん、まだ子供だった私にとって、
耐え難い環境だったと思う。


そんな中功は、
私をいつも一人にしなかった。

名字が変わって笑われた時は私を庇ってくれた。

泣きたい時はそばにいて、私を抱きしめてくれた。


何にもできない私に代わって、お母さんをなだめてくれた。


功は私の一番の理解者であって、大切な人となった。
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「功…。私は誰とも付き合わない。私には功がいてくれれば、それで良いの。」


私は
うつむいたままの功の頬にそっと触れる。


「梨乃…。」


私の名前を呼び、彼は私にほほ笑んだ。
とても綺麗に笑ってみせた。
まるで私に安心させるように。