窓の外で鳴いている蝉の声が大きくなったように感じたのは、何秒か続いた沈黙のせいかもしれない。


受話器と右耳の間にじわりと汗が滲んだ。動悸が激しくなった。


「そう……なんですね……」

「えぇ、残念ながら」

「…………」



「最後に校舎を見に来たいですか?」



最後に、という言葉に、胸がズキッと痛んだ。


私がみんなと過ごした校舎。


私のかけがえのない思い出が詰まった教室。


足がその場所に向かおうとしては、そのたびに心がそれを引き止め、結局、卒業してから一度も行っていなかった。


私はしばらくの間、黙り込んだ。先生は返事を急かすようなことはせず、ただ静かに私の言葉を待ってくれていた。






「……行きたいです」


長い沈黙のあと、私は言葉を押し出すように言った。声が届いてないかもしれないと思い、もう一度「行きたいです」と言った。


「わかりました。そうしたら、いつがいい?」

「もし迷惑でなければ、今日、行ってもいいですか?」

「えぇ、いいわよ。今日から学校が夏休みに入ったから、授業がないの。だから午後5時までだったら、何時に来てくれても大丈夫よ」


私はリビングの壁掛け時計を見上げた。時刻は午前11時を少し過ぎたところだった。