妖精を一目見たくて、リリアは村人たちの目を盗んでは森の中を歩き回った。

もちろん成長するにつれそれは、どう猛な獣や毒を持つ植物、そして森の最奥に並んでいるたくさんの墓に子供たちを近づけさせないための大人の作り話だと理解することになるのだが、それでもリリアは森に入ることを止めようとはしなかった。

すでに、この森が心の拠り所となってしまっていたからだ。

小川にかかる木製の小さな橋の手前で足を止め、リリアはほとりに息づく大木を見上げた。

踝まである白のスカートをすこしだけ持ち上げてから、汚すのを躊躇うことなく大木の幹のくぼみへとつま先を乗せ、背伸びをするように枝へと手を伸ばす。

ほんの少し足をじたばたさせながらも、リリアは勝手知ったる様子でするすると木を登っていく。

太く丈夫な枝に到達すると、その付け根の部分に腰をかけ、西の方角へと目を向けた。

葉っぱが邪魔してちらりとしか見えないが、周りの木々よりも高さで抜きんでている細長い木を、遠くに見つけることが出来た。

リリアは胸元に左手をあて、祈るように瞳を閉じた。

あの木のふもとに墓地がある。そこにはリリアの母、ソラナも眠っている。