その言葉で、俺は未来に思いを馳せた。

来年の今はきっと、俺達はお互い希望した大学へと進学して大学生活を楽しんでいる頃だろう。

受験に合格できれば、の話だが。


「なおちゃんは、どこ目指してるんだっけ?」

「…東京の私立」


すると菜子は、具体的な大学名まで教えてくれとがせがんだ。俺の答えを聞けば「すごいねえ」と目を丸くする。


「それ、難関私立ってやつでしょ?なおちゃんって頭良かったんだねえ」

「どういう意味だそれ」


俺は怒るのに菜子はケラケラ笑って、それからふっと寂しそうな笑顔をした。


「わたし、地元の大学に行こうって思ってるの。家から、近いし」


菜子が寂しそうな顔をする理由はなんとなく分かった。


はっきり言葉にしなくても、はっきり分かってしまった。


高校を卒業したら、俺達は離ればなれになる。


菜子は参考書を持ってページを捲ったかと思えばすぐに机に突っ伏して、こちらに顔を向けた。



「ねえ、なおちゃん。わたし、思うんだ。

どうして高校生活は一度しか送れないのかなあ」



それは嘆きのようで、叫びのようでもあった。


俺達はたった一度の高校生活を、ほとんど勉強に使った。

汗水流して部活に打ち込むこともせず、ただテストと模試に追われていた。

四季の移り変わりも、それを感じる余裕なんてほとんどなくて。

勉強も、模試も、将来のためと言われて、自分でもそう信じて、高校生活の今を未来のために費やしている。