――あれは、クラスメイトの雨夜(あまや)だ。


いつの間に現れたのだろう。彼はじっとこちらを見つめて動かない。白いワイシャツとグレーのズボン。私の高校の制服だ。雨夜とはほとんど話したことがないけれど、きっと間違いないと思う。

「ねえ、ここっていったい……」

じっと見つめられたまま動けないでいた私は、このまま見つめ合っていてもなにも変わらないと思い、そう問いかけてみる。雨夜の瞳が少しだけ揺れたのがわかった。けれど、いくら待っても返答はない。

おそるおそる、彼のほうへと足を踏み出した。ゆっくり着実に、その距離を詰めてゆく。その間、彼はひと言も発することなく私のほうをじっと見つめていた。

「ねえ、きみは……」

あと数センチ。手を伸ばせば届く距離だった。彼が傾けた顔を上げた瞬間、長い前髪がパラリと落ちる。間近で見る彼の瞳は、まるで星のない夜の暗闇のようで息をのんだ。

なにもない、真っ白な空間。座り込んでいる彼の瞳は、それとは対照的な色をしている。

自分でもなぜだかわからないけれど、ゆっくりと、彼に手を伸ばす。その瞬間、それを拒むように――初めて雨夜が、口を開けて声を発した。