「だけど」と遠慮の言葉を口にしようとした私を遮るように、たしかな響きでもって彼が私に告げる。


「これ、先輩命令。
会った時、このあだ名で呼び合えば、ヒロを見つける目印になるから」


……明希ちゃん、のアッシュブラウンの髪が、窓から差し込む光によって金色に光った。


なんだか胸の奥がくすぐったいのは、なんでだろう。

明希ちゃんの提案は、幼心を思い出させるようなものばかりで。


その時、午後の授業開始5分前を知らせるチャイムが鳴った。


「あ、もうこんな時間」


私は立ち上がり、重箱を包む。


「じゃあ、行くね」


そう言いながら準備室から駆け出ようとすると。


「行ってらっしゃい、ヒロ。また明日」


そんな声が聞こえてきて振り返れば、ガランとした準備室の中、机に軽く腰をかけた明希ちゃんが手を振っていて。


「……また明日。明希ちゃん」


私は軽く手を挙げ、彼と同じように返し、また重箱を抱え直して廊下を駆けた。


だれかにまた明日を言うなんて、いつぶりだろう。

そんなことを考えながら。