真梨に数学のノートを見せていると、教室の後ろのドアから「おーい、三島ー!」と優海を呼ぶ声が聞こえてきた。

振り向くと、地歴の橋本先生が怒り顔で腕組みをしている。

それを見た瞬間、優海が「あっ!」と声をあげて青ざめた。

「忘れてたー!」

その叫びに、私は呆れ返って眉をひそめる。

あいつ、本当になんでもかんでも忘れて。どうしようもないやつ。

優海はがばっと立ち上がり、そのままの勢いで橋本先生のもとへと駆け寄った。

「ごめん先生! すっかり忘れてた!」
「ばかやろー、俺が昨日どんな気持ちだったか分かるか、こら」

二人のやりとりをクラス中が苦笑しながら見ている。

真梨もくすくす笑って私に話しかけてきた。

「三島くん、また何か忘れてたみたいだね」
「放課後に先生から呼び出されてたのに、すっかり忘れて部活に直行しちゃったんだよ」

肩をすくめながら答えると、

「すごいねえ、凪沙と三島くんほどの付き合いになると、何も聞かなくてもそこまで分かっちゃうんだ」

私は少しどきりとして、それから笑みを浮かべる。

「うん、なんとなくね。どうせそんなとこだろうなって」

向こうでは優海が引き続き先生から怒られている。

「ずっと準備室でお前が来るの待ってたんだぞ、暗くなるまで!」
「えーほんとごめん先生……行かなきゃって思ってたのに授業終わった瞬間、部活のことで頭いっぱいになっちゃって……」
「だからメモしとけって言っただろうが」
「それも忘れてた……ごめんなさい」