「…うん…」

そう……私、先生なんだよ。

「アハハ…

そんな悲しい顔しないでよ。

フラれたのはこっちなんだから…。

もし何かの手違いでさ…

俺の事を好きになってくれたら

いいのになって思ってた…。

俺さぁ…

これでも告白するのとか…

すっげー頑張ったんだけどなぁ…。

頑張ったけど…

先生が幸せならいいや。

ずっと、笑っててよ…。

絶対、幸せになって…。」

そう言って新井くんは、笑って私を見た。

「…う…うん、ありがとう。」

その笑顔を見た瞬間…

胸が再びズキッ……と痛くなる。

この痛みって…何?

この変な気持ちは…何なの?

新井くんは、私の体を優しく支えながら

ゆっくり歩いてくれた。

電車の中でもずっと私から離れずに

私の服が汚れているのを隠すように

立っていてくれた。

アパートまでの道のり……

新井くんと、ずっと肩を寄り添って

歩いている。

彼の温もりが伝わってくるくらいの距離。

沈黙が続いて…

たまに彼の顔を盗み見してしまう。

横顔の彼は、睫毛が女の子みたいに長くて

スッと綺麗な鼻筋が印象的だった。

…本当…キレイな顔してるんだ。

これから、きっと君には

たくさん、素敵な子が現れる…。

これで、よかった…。

そんな私の視線に気づいたのか

新井くんが私に話しかけた。

「……あのさ…紅を見てもいい?」

新井くんが遠慮がちに私に訪ねる…。

「え…紅を…?」

「…うん…最後だから挨拶したい。」

…最後だから…

彼の口から聞くとこれが現実だとわかる。

「いいよ…。」

驚くほど自然に答えていた私…。

…何でこんな自然に…。

でも…

この不思議な関係は今日で終わりだから…。

ギュッ……

え…。

新井くんが私の手を握りしめた。

「…新井くん?」

彼の顔を見上げると

その瞳が私にすがるような眼差しを

向けていた。

「少しだけ…今だけでいい…」

そう呟くような小さな声…。

私は、握られた手に力を入れようとした。

「…………っ……」