半ば自分にそう言い聞かせながら、暴れても私から手を離さなかった若い男に言う。



「あの、下ろしてください!」


「分かったから暴れるな」



男は、そっと私を地面に下ろす。


私は立たせてもらう時間すらもどかしく、下ろしてもらった瞬間に、転びそうになりながら走り出した。



…どこかに!どこかにこの時代劇みたいなセットに終わりがあるはず!



遅い足で、懸命に走って、走って、走った。


だけど…



「嘘、だよね…?」



どこまで走ったって、終わりなんてなかった。

同じような建物が並んでいて、どこまで行っても、和服の人たちが物珍しそうにこっちを見ながら歩いていた。




…セットなんかじゃない



私は本能的にそう感じる。



そんな…まさか、まさかね。

落ち着こうと手で額を押さえる。



そして、あり得ないとは思いつつも、私はそっとその可能性を口にした。



「…タイムスリップしたなんてこと、ないよね?」