「あぁ……ケガ…ね、大丈夫でしょう。

ただのかすり傷ですよ、すぐ治ります。」

「……え?

でも、倒れていたじゃないですか。」

「新井、軽くやっただけですよ?

倒れていたのは急所をついたから…。

部員のケガを見てすぐわかりました。

新井は、本気で殴ってないって……。」

「……え、そうなんですか?」

本気でやってなくて

あんなに倒せるなんて……。

「新井が本気でやったら

多分……

全員、病院送りですよ。

本当にボコボコでしょう。」

「……ええっっ!」

そう言って平野先生は、笑った。

「でも…

今日、少しだけホッとしましたよ。

新井…空手ではケンカしないんだな…。

だからね……不謹慎ですが

少しだけ、嬉しいんですよ。

光が空手をケンカの道具に

してなかったんだって。

空手にまだ未練が

あるんじゃないかって……。」

「……未練?…。」

「彼がその気なら…いつかまた

アイツに空手をさせてやりたい。」

平野先生は、そう言って笑った。

平野先生の想いが

新井くんに届けばいいのに……。

それと同時に、今日の

彼が見せた寂しそうな瞳を

思い出していた。

どうして…あんな顔したの?

新井くん…って…

本当の彼は…どんななんだろう?