さらに、私の腰を抱きよせた男は、「そんなに良かった?」と耳元で囁いた。

吐息が鼓膜に伝わり、妙な気分になる。

端正な顔立ちをした男はまるで分かっていない。

自分が及ぼす影響力を。

私の鼓膜をふるわす彼の声は恐ろしいほど甘美で、強烈なまでにその肉声は私の耳にひどく鮮明に焼きついている。

この声は私にとっての絶対で、歯向かうことを決して許さない。

それどころか思考する事さえもままならなくさせる。


——もはや彼の声は、凶器だ。






プロローグ fin.