「あと、お礼っていうか……

冷蔵庫にあるもんで、朝飯作ったんで…。」

「えっ、朝御飯?」

そう言って彼はリビングの小さな机の上に

お握り、厚焼き玉子そして、お味噌汁を

置いた。

「……え、嘘……これ、君が作ったの?」

「…簡単だけど。」

私より、上手かも……いや、負けた。

「…ちょっと食べてみていい?」

「…うん。」

私は、お味噌汁を一口すする。

「…えっ…美味しいっ!」

思わず厚焼き玉子も食べてみる。

「美味しい、中がしっとり……。」

すっ、素晴らしい…完敗だ……。

「すごいっ!!」

私がそう言って笑いながら彼を見た瞬間…

彼は、目を細めて笑いながら私を見ていた。

え……っ

その顔があまりに可愛いらしくて…

私は、一瞬……ドキリとした。

えっ…可愛いっ…。

「…あ…どうもっ。」

彼は、そう言うと洗い物を手早く済ませ

脱衣所で昨日の服に着替えてきた。

その服は、工事現場の作業服みたいだった。

「服、乾いてる?

一応、浴室乾燥させておいたんだけど…

あと、スプレーの汚れがとれなくて…。」

「……大丈夫です。じゃあ、俺…行きます。」

「あ、うん…。」

そう言うと

玄関のドアを開けて、出ていった。

行っちゃった……。

もう、会う事もないんだろうなぁ…。

変な子だったけど、でも…そんなに

悪い子じゃない気もする…。

昨夜の事を思い出しながら

しばらく、その場でボーッとしていた。

「にゃ~にゃ~」

「あっ、そうだっ

君にも何かあげないとね…。」

そう思って、キッチンに行こうとすると

ガチャッ!

急に玄関のドアが開いた。

えっ?

「あのっっ。」

振り返ると、さっきの青年が立っていた。

びっくりしたぁ……っ。

「…な、何か?」

「これ……っ。」

そう言って彼はコンビニの袋を私の目の前に

出した。

「……えっ…。」

中を覗くとそこにはキャットフードと

牛乳が入っていた。

「…え、わざわざ、買ってきてくれたの?」

「…何もなさそうだったから…。」

「…あ、ありがとう…。」

「あっ、あの…。」

「…え?」

「………いや、なんでもない…です。」

「うん、、はい……。」

えっ、何だろ…。

そう言うと彼は私に頭を下げて

出ていった。

今……

何か言いかけた?

それにしても…

昨日、君は一体…

あの公園で何をしてたのよ?

名前……

聞かなかったなぁ……。

もう会わないって思ったし…。

何処の誰かもわからない。

でも…朝ご飯、美味しかった。