生徒指導に引っかからない程度に染めたダークブラウンヘアーの桃香が、右手であたしの前髪をちょんちょんとつついてきた。
「学校でガチ寝しないのー。前髪せっかく巻いてきたんでしょ?」
そう言う桃香の前髪は、正午を過ぎた今でもバッチリ崩れずにきまっている。
「昨日、寝れなくて……」
あたしは目をこすりながら、乱れた前髪を手ぐしで直した。
「萌ちんなんで寝れなかったの〜? 恋なの〜?」
桃香の隣に座っている伊代が興奮ぎみに机をたたく。
「うう、なんでふたりとも、すぐ恋愛に結びつけたがるの……?」
ぼそりと呟くと、
「この中であなただけ彼氏いないからじゃん!」
「この中で萌ちんだけ彼氏いないからじゃん〜」
声を揃えてそう言われてがっくりきた。