「聡次郎は昔から自由に生きていたように見えて縛られていました。会社は慶一郎さんが継ぐと決まっていたにもかかわらず、進学も就職も学生時代の交際相手にすら口を出されてきました」

初めて聡次郎さんに会ったとき、飲料メーカーに就職していたのに無理矢理龍峯に呼び戻された、とずっとそんな態度だった。

「僕は聡次郎の人生は自分で選ばせてあげたいのです。だから三宅さんを選んだことを誇りに思いますよ」

月島さんは微笑んだ。

「聡次郎は初めて会った頃から三宅さんに惚れていました」

「そんなまさか」

だって最初からずっと意地悪なことを言われてワガママにつき合わされてきたのに。

「僕は20年以上の付き合いですから。聡次郎が三宅さんをどんなに想っているか分かりますよ」

想っているなんて言われ照れてしまい下を向いた。

「全然そんな態度じゃなかったのに……」

私の言葉に月島さんは「ははっ」と小さく笑った。首を傾げた私に「ああ、すみません」と月島さんはどこか懐かしむような顔をした。

「聡次郎は昔から素直じゃないんです。僕が言うのも失礼ですが、時代遅れと言ってもいい一族に生まれましたからね。聡次郎自身、本音を隠して強く見せようとするところがありました」

月島さんの言葉に頷いた。私だって龍峯は時代遅れの会社だと思ったことがあるのだ。

「その聡次郎が強く三宅さんを望むのなら、僕はそれを支えます」

月島さんは再び微笑んだ。何て素敵な人なんだろうと月島さんを見て思う。こんな友人がそばにいてくれて聡次郎さんは幸せだ。